その日わしは電話で目を覚まされた。それは、当時の球団代表、川室(かわむろ)からのものだった。 
「オーナー、朝早くから申し訳ございません。ちょっとまずい事態がおこりました。いや、起ころうとしていると言うべきかもしれません。」

 「なんだ、こんなに早く、少しは遠慮せんかぁ。」
 「それが、あんまりのんびりもしてられませんので。たった今、原達(はらたつ)監督から電話がありまして・・・。」
 「なんだぁ、原達がなんか言ってきたのかねぇ・・・。!まさかっ・・・・」
 「そうです。そのまさかです。」

この年FA資格を得た我ゼネラルスの主砲松田の動向はこのオフの注目の的であった。もちろんわしも松田の残留には全力を尽くせと、金はいくらかかってもかまわんから是が非でも残せと厳命しておった。
 そもそもFA制度は、我ゼネラルスのための制度ともいえるもので、我軍の補強のために生かすことはあっても、我軍から看板選手がFAして出て行くようなことがあってはならないものなのじゃ。
 (まぁ、93年のオフに我軍が下落合を中部ペガサスから獲得したときに、ポジションがかぶる駒川がFAで横須賀ムーンライツに出ていったという例はあるが、奴はスターでもないし、下落合がいれば無用の長物だったから仕方がなかったのじゃ。)

 「ど、どおいうことじゃ・・・・・。まさか、おまえ、そんなことが・・・・」
 わしは言葉が思うように出なかった。
 「それが、私も青天の霹靂で・・・・・。なんとも・・・・」
 「ばっかも〜ん!なんともとはなんじゃ。まだ決まってしまったわけではなかろう・・・」
 「いや、しかし、原達監督が言うにはかなり意思は固いとのことで・・・・」
 「もぅ、どいつもこいつも役立たずな奴ばかりじゃ。それで、はい、そうですかってかぁ。馬鹿じゃあるまし。ちゃんと仕事をせぇ。仕事を!」
 「・・・・・・・・・。」
 「もぉ、いいっ!すぐに原達と松田を事務所に呼び出せ!わしが直接意見してくれる。いいな!すぐにだぞ!」

 わしは電話を切ったあと、暗澹とるおもいに浸った。ゼネラルスの4番が、看板選手がFAで出て行こうとしている。こんなことがあってよいのか。伝統のある、球界の盟主であるゼネラルスの看板を背負い、年俸も待遇も球界一だ。何の不足がある。今年は日本一にもなった。これから黄金時代がくる。かって川下監督時代のV9を凌ぐ10連覇だって夢じゃない。そのチームの主砲として球史に名を残せる。地位も名誉もすべて手にすることができるのだ。それもこれもゼネラルスにいればこそじゃ。それを何故・・・・・。

 球団事務所に着くと、すでに川室が先に到着していた。それと、わしが内々に呼んでおった四山(よつやま)が控えっておった。わしはオーナー室へ後から来る原達と松田以外は誰も通すなと秘書に厳命し3人でオーナー室へ籠った。川室は、そこに四山が居るのを少し怪訝そうに見てとったが、理由までは聞かなかった。わしも敢えて説明することはしなかった。

 「それで、松田はなんと言っているんだ。理由はなんなんだ。何が不足なんだ。」
 わしは事務所までくる途中、ずーっと考えていた疑問をぶつけた。
 「それが、詳しくは・・・・。私も松田は残留してくれるものと・・・。条件も最高のものを用意したし、ドームの人工芝も松田の希望を入れて張り替えることにしましたし・・・。」
 「だから、何故だと聞いておるのじゃ。まったく、要領を得ん奴じゃなぁ。」
 川室がチラッと四山の方を見た。
 「それが、原達監督も動転しており、よく説明が・・・・・。」
 川室は、真面目すぎるのが欠点じゃ。言われたことは言われたようにきっちりとやる。それはそれで良いのじゃが、どうも応用が利かん。だから、こういう予想外の展開に対処しきれない。その点では、四山の方が機転が利く。ただし、少々策士策におぼれるというきらいがあるがな。
 川室が言葉につまり沈黙が続いていた。その時、秘書から原達と松田が着いたことを知らせる内線が鳴った。わしは少し考え、まずはじめに原達だけをオーナー室へ通し、松田には少し待機しておくよう伝えた。

 「すみません、昨日からずっと松田の説得にあたっていたもので・・・・・。」
 入ってくるなり原達は、訳の解らない弁解をした。誰も遅れて来た理由を聞いてる訳ではない。すると川室が久しぶりに口を開いた。
 「原達監督には、昨日から松田君の説得をお願いしてまして・・・・・。」
 「そんなことはいい。まずはそこに座れ。」
 原達はちょっときょとんとした顔をして、あたりを見回し、そこに四山を見つけ少し不審そうな目をむけると、やっとソファーに腰掛けた。そして、少し前屈みなり顔を伏せ、いかにも悩んでいるといったポーズをとった。
 「それで、松田の要求じゃが、どういうことなのじゃ。」
 わしの問いに原達は、例の涙目をわしの方へ向け、
 「それが、どうしてもFA権を行使するということに・・・・、意思は固いと・・・・。」
 「そういうことじゃなく、何が欲しくてFAするのか、奴が今後どうしたいと思っているのかということじゃ。」
 「・・・・それが、・・・申し上げにくいことなんですが・・・・・、」
 「なんじゃ、もったいつけおって、おおかたあのくだらんメジャーにでも行きたいと言っておるのじゃろ。ちがうか。」
 「・・・・・それが・・・、どうやらそう言うことじゃなく・・・・。」
 「なんだ、メジャーじゃなければなんなんだ、金は青天井も同然。設備投資も奴の望むままだ。他になにがある。」
 原達はしばらく沈黙した。そして、例の涙目をますますうるうるさせながらわしを見つめ返し、少しわしを憐れむような表情を浮かべ、
 「オーナーは、松田がプロ入り前、どこの球団へ入りたかったかご存知のはずですが・・・」
 わしは目が点になると同時にハンマーで脳天を殴られたような衝撃を受けた。
 「な、なぁーにっ!・・・・そ、そんな・・・ことが・・・・」

  松田は高校球界きっての強打者で、1992年の夏の甲子園大会では5打席連続敬遠という前代未聞のできごとが起きたほどだ。もちろん、その年のドラフトの目玉。それも超目玉であった。松田が幼い時からのタイタンズのファンであることは良く知られていた。松田がタイタンズ入りを望んでいることも。しかし、当時のドラフトは、競合球団の抽選というスタイルであったため、我ゼネラルズも当時の監督中島の強い要請を受け強引に指名を行った。そして、見事に抽選を当てて、入団にこぎつけたのだ。

 「奴は、タイタンズに行きたいと言っているのか・・・・・・」
 わしは開いた口が塞がらなかった。いくら昔、タイタンズのファンだからといって、この後におよんで、ゼネラルスを捨ててまで行きたい球団が国内に存在するとは、夢にも思っていなかった。
 「私も意外でした。・・・・松田がゼネラルスを捨てるのは、メジャーと比較した時ぐらいかと・・・・、それが、・・・タイタンズ・・・・なんて・・・・」
 原達はまたうつむいて、じっと前で組んだ手を見つめていた。
 「すぐに、松田をオーナー室へ通せ!」
 わしは受話器を取るとすぐ秘書へ向けて大声で命じた。自分で松田自身の口から聞くまでは信じられん、いや信じたくないことであった。

 しかし、松田がオーナー室に入ってくると、まもなくすべてが現実のものであることを知ることとなった。この日の松田は、なにか強い意思をもってわしとの対面に臨むという険しい表情をしていた。その顔から松田の意思の固さが見てとれた。
 「なぜ、そんなにタイタンズにこだわる。いまやタイタンズはリーグのお荷物じゃ。ファンは多いが、万年最下位争いの弱小球団に成り下がっている。そんな所へ行って、何がある。ゼナラルスで黄金時代を築き、巨万の富と名誉を得たほうが幸せに決まっているじゃろ。」
 「オーナー、お言葉ですが・・・・、だからこそ今、タイタンズの役に立ちたいのです。それに、1球団だけに戦力が集中し、勝ち続けても野球界の発展には、何の効果もありません。逆にペナントレースの興味を削ぎ、衰退へつながります。」
 「くだらんことを言うなっ!ゼナラルスの勝利こそが野球界発展の道じゃ。日本国民の大半はゼネラルスのファンじゃ。アンチもファンの一種であるとすれば、国民全てがゼネラルスの勝敗に一喜一憂している。ゼナラルスの勝利が日本経済さえ救うのじゃよ。」
 「しかし、今シーズン、ゼネラルズは、圧倒的な戦力で勝利を重ね大独走の末、ペナントを制し日本一にもなりました。でも、ゼネラルス戦の視聴率は下がり続けましたよね。しかし、タイタンズが開幕から好調に飛ばしたとき、一番の盛り上がりでしたよね。やはり、ゼネラルスに対抗するタイタンズの存在が野球界には必要なのです。・・・・私一人の力でどうなるものでもないかも知れません。でも、私が入ることによって、少しでもタイタンズの戦力がアップし、ゼネラルスに対抗していけるようになれば、東のゼネラルス、西のタイタンズという伝統のT−G戦が復活できるのです。それがプロ野球繁栄の道につながると、そう思えるのです。」
 「なにを偉そうに講義をたれてるのじゃ。貴様がプロ野球界を心配せんでもいいのじゃ。このゼネラルスのことだけを考えておれ。金はいくらでも出す。・・・、どう奇麗事言っても、子供のころの憧れを実現したいだけなんじゃろ。奇麗事は、すべてを失わせるぞ。いいのか・・・・・」
 「そう、奇麗事かもしれません。子供の時に敷布(しきふ)選手のプレーをみて憧れていた、タイタンズのユニフォームを着たいだけかもしれません。でも、今回FAについていろいろ考える機会を与えられ、かってジュンイチローや山茂(やまも)、大魔人代々木(よよぎ)さんなんかが海を渡ってメジャーに挑戦しにいった気持ちが理解できました。それほど選手にとって日本のプロ野球界に魅力がなくなってきているのです。選手がそうですからそれはすぐにファンへ伝わるでしょう。ゼネラルスがすべて牛耳って、プロ野球界を思うようにしている。ドラフトの自由枠、FAの仕組み、すべてを利用しての戦力の一極集中化。他の球団、特にジャパン・リーグ(プロ野球は、メトロポリタン・リーグとジャパン・リーグ各6球団で成り立っている。略して、メ・リーグとジ・リーグと呼ばれている。)は、ゼネラルスの草刈場と化し、ゼネラルスのマイナーとも呼ばれているような事態です。そんな日本球界に嫌気をさし、皆んな海を渡っていったのです。・・・・でも、私は日本球界が好きです。何とか魅力あるものにしたいのです。・・・それは、私がFAでゼネラルスを出るということで、ゼネラルスだけが潤っているわけじゃない、そしてタイタンズが対抗勢力として台頭することでペナントへの興味や興奮を呼べるようになれば・・・・。そう、考えました。」
 「くだらんよ。メジャーにいった連中だって、すぐに気づいて戻ってくる。メジャーの方がよっぽどくだらんとな。それに、ジ・リーグだって、じきに解散させて1リーグ制にしてやる。それまでは、きばって我軍に選手を供給すればいいのじゃ。よく、供給してくれたところから、残してやる。そうすれば、我軍との対戦カードが組まれ、奴らも大喜びじゃ。それでいいのじゃ。これこそ野球界発展の道じゃ。」
 「覚悟はしてましたが、どうもオーナーにはご理解いただけないようで・・・・・」
 松田は覚悟を決めていた。わしがなんと言おうとFAを行使する、そういう意思は確固たるものであると読んでとれた。
 「しかし、おまえがFAしてもタイタンズが手を挙げるとは限らんじゃろ・・・・、それとも、もう内々の打診があったのか、・・・・、それは協約違反じゃろ。」
 「そんなものは、ありません!・・・でも、星山監督なら私を必要としてくれるという確信はあります。」
 「しかし、お前の年俸を出し、補償金も出すのじゃろ。そんな金、関西電鉄(タイタンズの親会社)にあるのかのぉ」
 「星山監督なら、本社の金庫をこじ開けてくれると信じてます。・・・・」
 こうなるともう松田はテコでも動きそうに無かった。わしはこの場での説得を断念せざる得なかった。松田をとりあえず帰して、残りのメンバーで善後策を検討することにした。

 松田が帰った後、我々にはなかなか妙案が出てこなかった。とりあえず、原達に引き続きの説得を試みてもらうと同時に、川室には松田の動きをマスコミに察知されんように手配させた。加えて松田のFAの書類提出を先延ばしにするよう説得させることにした。くだらん時間稼ぎのようだったが・・・・。
 そして、その場が解散する間際であった、四山がわしの耳元で話があると告げたのは。原達と川室が出て行くのを見届けて、四山がわしの元へ近づいて腰をおろした。
 「とんでもないことになりましたな。まぁ、原達監督や川室代表の危機管理の甘さというか、力のなさというのでしょう。」
 「なんだ、お前だったらこうはしないとでも言う口ぶりじゃのぉ。・・・・それで、話はなんじゃ、なんか妙案があるのか。」
 「まぁ、こうなった以上妙案というわけには行きませんが、次善の策ってやつならございます。」
 「ほう、聞かせてもらおうじゃないか。その次善の策を・・・・」
 「それでは、要点をかいつまんで、・・・・・・、まず松田がFAすることがゼネラルスにどんなデメリット、不都合があるかということです。ひとつは、言うまでも無く戦力ダウンです。まあ、4番がいなくなるのですから・・・・・。それと、タイタンズに行ってしまった場合、・・・これはタイタンズの戦力がアップします。今年の勢いからして松田を得れば、タイタンズは立派な対抗馬になるでしょう。加えて、日本を代表する4番の松田、スーパースターである松田がゼネラルスよりタイタンズを選んだという、我ゼネラルスのプライドがズタズタになりかねない事態。ゼネラルスのブランド力の低下。といったところでないでしょうか。」
 「わぁかっておるわい。それが、大変なことなんじゃ。だから、どうすればようかと聞いているのじゃ。」
 「すみません。まずは問題点の整理からと思いまして・・・・。」
 「まずは、戦力ダウンについては、いろいろ補強が可能かと・・・・。今シーズン、FAしそうな大物でも、岡山シュリンプの金山、近畿ブルズの中原紀之、加えてヨーグルト・スパローズのパタジミーも契約が決裂しそうですし・・・・、彼らを補強すれば・・・・、一人じゃ足りなければ二人、三人と獲得すれば穴埋めできるかと・・・。それに、彼らには、タイタンズも食指を伸ばしてますし、それを阻止することでタイタンズの補強も阻めるメリットがあります。」
 わしは少々興味を覚えた。
 「続けろ!」
 「はい、では次の問題です。松田がタイタンズに行ってしまった時のことを考えると・・・、タイタンズの戦力アップは、先の三人の比ではありません。加えて、我軍のプライドも・・・、これはどうしても阻まなくてはなりません。」
 「だから、どうすればいいかと・・・ずーと聞いているだろ!」
 「はっ、そこでです。松田にはメジャーに行ってもらいましょう。メジャーとの比較ならゼネラルスの価値も下がりません。しかもタイタンズには行きません。松田のいうゼネラルスへの戦力集中への警笛という目的もFAを行使することで果たせるでしょう。」
「それで、奴が納得するか。奴はタイタンズのユニフォームを着るのが夢なんじゃぞ。」
「その夢をメジャーに書き換えてもらいます。同じ縦じまのユニフォームでも、現在提携作業がすすんでいるヤンキースの縦じまでも着てもらいましょう。その説得には、中島終身名誉監督が適任でしょう。こんな時のための名誉監督なんですから。原達よりは遥かに影響力がありますよ。」
 「そ、そんなことがうまくいくのか、松田がうんと言うのか、・・・・」
 「うんと言わすのです。これ以外に方法がありますか。今日の松田の様子からしてFA行使は避けられそうにはありません。いまさら、残留工作に有効な手段はないかと・・・、問題が金ならいざしらず、日本プロ野球へ一石を投じるような覚悟で臨んできております。松田の意識としてはタイタンズへ行くことより、我ゼネラルスから出て行くことで、野球界へ一石を投じる方が重要であるようで、ゼネラルスから出て行くのは避けられないかと・・・・・、なら我軍に一番影響のでない方法でないと・・・・、逆に松田のメジャー行きを後押しでもしてやれれば、ゼネラルスと株は上がっても下がることはないかと・・・・・」

 わしの頭の中ではいろんな計算が回っておった。こんな、わしの顔に泥を塗るようなことをした松田への憎悪の気持ち。なんとか野球界から葬ってしまおうか、という気持ち。わしの嫌いなメジャーへ松田を出したくないという気持ち。だが、絶対にタイタンズにはやらないという固い決意。たかだかこんな問題で、わしの評判を落としてしまってよいのかという気持ち。いろんな気持ちの葛藤の末、四山の案に乗ってもいいと思えてきたのじゃ。
 「その線で行くしかなさそうじゃな。・・・・仕方あるまい・・・・・。」
 四山がうっすら笑みを浮かべた。
 「そうですか、ありがとうございます。・・・・それでは、オーナーは中島名誉監督へ例のホットラインで松田への説得を頼んでいただけますか。私は松田の外堀を埋める作業の指示をしてまいります。」
 「外堀?、それはどういうことじゃ・・・・」
 「はっ、それは松田の両親や、高校時代の監督などに、松田のメジャー行きの夢をご理解いただき、後押しをしてもらうということで・・・・・・」
 わしは四山のこのあたりの気の回り方を買っておる。なかなかできることじゃない。川室に爪の垢でも煎じて飲ませたいくらいじゃ。
 「わかった。中島にはわしから伝える。・・・・それと戦力の補強リストも急がせねばなぁ。FAの出遅れは禁物じゃ。その辺も聞いとくとするか。」
 「はっ、それがよろしいかと。私のほうからも水井(みずい)球団社長の方へ知らせておきます。すぐにスタッフ会議を招集するようにと・・・・。」
 「まて、それはわしから言う。あまりお前が前に出ると良くないこともある。」
 「わかりました。それでは、失礼致します。」
 四山が部屋をでていくと、わしはすぐに中島へ連絡を入れた。

 中島 茂(なかじま しげる) 我買読ゼネラルス終身名誉監督(これは、わしが与えてやった役職じゃ)
 戦後プロ野球を支えたスーパースターだ。川下監督のもと世界のホームラン王こと王定 治夫(おうさだ はるお)とならんでON砲を形成し前人未到の9連覇を達成した中心選手だ。記録の王定、記憶の中島といわれその人気は凄まじかった。

 中島はひどく驚いていたが、松田が決心したら何を言っても無駄だと。誰も松田の決意を翻すことはできないのではないかと。それは中島でさえ無理だと言ってきた。そこでわしは四山が考えた秘策を中島へ授けた。
 「いいか、松田のファンはゼネラルスのファンでもある。そのファンが松田が敵のタイタンズに廻ったらどう思う。それは、ファンへの裏切り行為だぞ。だが、メジャーに挑戦となれば、話は別だ。ファンは松田がメジャーでどれほど通用するか見たがっておる。ファンは松田を応援し続けるじゃろう。松田はファンへは、夢への挑戦として大義名分がたつ。そして、ゼネラルスの戦力集中に対いして一石を投じるという目的も果たせる。タイタンズのユニフォームを着るのは、ファンへの裏切りじゃ。メジャーへの夢に切り換えろ、とこう言うのじゃ。わかったな。」
 これは、ファンを大切にする松田の心理を読んだ見事な作戦じゃ。加えて、高校時代の監督や両親に相談でもしてみぃ。みんなメジャー行きを勧める手筈になっておる。もちろん、ゼネラルス残留が一番だけどな、という条件付だがな。
  中島は、甚く感心し、すぐ松田に連絡を取って、伝えると約束した。

 このとき、わしは中島に松田の代役の補強について意見を求めた。岡山シュリンプの金山、近畿ブルズの中原紀之、ヨーグルト・スパローズのパタジミーのうち誰が適任かとな。
 中島は以外や金山を勧めた。もちろん一人で松田の穴が埋まるもんではないとの前提つきじゃがな。それは、松田と同じ外野手である点。加えて金山が頑丈で1イニングも休まず連続出場を続けている点を買っておった。チームの中心が欠場がちでは、中心足り得ないという考えからじゃ。選手としての力量はパタジミーも買っておった。そりゃ、同じリーグだし、ここ数年いつも松田とタイトル争いをしていただけに実力は折り紙つきじゃ。ただし、清島とポジションがダブルことを気にかけていった。外野を守れれば文句なしだが、まず守れまいと言っておった。中原のノリだが、リーグが違う点(ジ・リーグ)、その実力を測りかねると言っておった。しかも、いつもお山の大将でいなければすまない性格も、大将だらけのゼネラルスではどうかとな。わしも奴の茶髪だか金髪だかわからん髪形や言動が気に入らんと思っているといっておいた。ただ、3人とも重要な戦力であることは確かだし、他球団やるくらいならゼネラルスで取っておいたほうが相対的な戦力アップに繋がると言うことじゃった。

 中島は監督としての采配などはよくわからんことが多く、その力を測りかねるが、選手を見る目は確かだ。この点はいつも感心させられる。最高のスカウト足りえる眼力の持ち主じゃ。

 こうして、すべての指示を出し終え、長い1日が終わろうとした。順調に行けば明日も忙しい日になりそうだ。松田が中島の説得に応じれば、心変わりをする暇を与えず、すぐ記者会見までさせてしまう作戦じゃ。各方面への手配などやることは盛りだくさんじゃ。

2003年10月30日